まず淋しい孤独

むぬね にぬす

2014年07月08日 15:51



DR REBORN老闆
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白はまた、ときどき白の記憶に繋がってしまう。
学生の頃、友人のひとりが精神を病んで閉じこもってしまった。訪ねていっても下宿のドアを開けてくれない。扉の向こうで、脈絡のない妙なことばかり口走っていた。
当時は携帯も電話もない。地方から東京に出て暮らすには、まず淋しい孤独な生活に耐えなければならなかった。パン屋でパンを買う。そのとき口にだす短い言葉が、その日に喋った唯一の言葉だという日もあった。

無理やりドアを開けたら、彼は逃げるように部屋をとび出していった。表情の異常さに危険なものを感じた。
近くの交番に助けを求めたが、それだけのことで警察は動けないといって尻込みされた。
夜になってもういちど彼の部屋を訪ねると、ドアには鍵がかかっていたが、中から彼の歌声のようなものが聞こえてきた。
チャペルにつづく白い道。
そんな文句だった。詩だか歌だかはわからなかった。節が付いていたので歌だったのだろう。ぼくがドアの外にいるあいだ、ずっと同じ文句をくりかえしていた。彼もとうとう都会の生活に敗れたか、と思って悲しかった。

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